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福岡高等裁判所 平成11年(う)199号 判決

論旨は,要するに,①罰則規定である食品衛生法30条の2第1項,21条1項,20条は,犯罪構成要件の一部を政令に包括的に委任しているが,これは罰則規定を政令に包括委任することを禁止している憲法73条6号ただし書に違反するもので違憲無効であり,②そうでないとしても,食品衛生法施行令5条15号に規定する「清涼飲料水」の文言は,一般人にとってあいまいかつ不明確であるから,犯罪構成要件の明確性を要求している憲法31条に違反し罰則として文言上無効であり,③仮に,食品衛生法施行令5条15号の規定が違憲無効でないとしても,「清涼飲料水」の文言は,一般国民が通常理解しているところに従い,炭酸ガスを含有する清涼感を覚える飲料水に限定して解釈すべきであるから,本件天然ミネラルA液は「清涼飲料水」に該当せず,被告人の行為は罪とならないのに,これを有罪とした原判決は,憲法73条6号ただし書,31条,食品衛生法30条の2第1項,21条1項,20条,同法施行令5条15号の解釈適用を誤ったものであって,右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである,というものである。

1 まず①の罰則の委任が包括的で違憲であるとする所論ついてみるに,食品衛生法30条の2第1項,21条1項は,同法20条の規定する営業についての無許可営業を処罰する規定であるところ,同法20条は「都道府県知事は,飲食店営業その他公衆衛生に与える影響が著しい営業(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第2条第5号に規定する食鳥処理の事業を除く。)であって,政令で定めるものの施設につき,業種別に,公衆衛生の見地から必要な基準を定めなければならない。」と規定しているから,許可を要する営業は,公衆衛生に与える影響が著しいもののうち政令で定めるものに限定する趣旨である。すなわち,同法21条は,そのうちの処罰の対象となる飲食物の無許可営業の範囲について,「飲食店営業その他公衆衛生に与える影響が著しい営業」の性質を有するものに限定して,刑罰を科す根拠としての違法性を明らかにした上で,その範囲内で,同法20条により同法の規制目的に従い営業の施設基準を定める必要があるとして政令で選別,指定された業種の営業を一般的に禁止しこれを無許可で営んだ場合を処罰することとしているのであるから,罰則の政令への右委任は,立法府の意図し予定する内容を具体的に示して委任するものとして,限定的,具体的なものであることは明らかである。また,公衆衛生に著しい影響を及ぼす営業についての規制は,種類別に,技術的な側面を含め適切に対処することが望ましく,食品業界における技術の進歩,流通形態の変化,国民の食生活の変化等の食品衛生に関する状況の変化に応じて随時その規制対象及び内容を見直す必要があることからすると,このような対応を事情に通じている行政機関に行わせることにつき必要性,合理性が認められるから,規制対象の選別,指定,営業許可の基準等につき委任することには必要性,相当性が認められる。以上によれば,右政令への委任は,所論のいうような処罰の対象の包括的な委任ではなく,憲法73条6号ただし書に反するものではない。所論は採用できない。

2 次に②の清涼飲料水製造業の文言があいまい不明確であり,③限定解釈を施す必要があるとの所論についてみるに,確かに,食品衛生法及び同法関係法令中には,「清涼飲料水」について具体的に定義した規定は見当たらないが,刑罰法規があいまい不明確の故に憲法31条に違反すると認められるかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,当該刑罰法令の文言のみではなく,関係法令を含めた規定全体の趣旨から,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかにかかっているというべきである。これを本件についてみるに,食品衛生法20条の委任に従い定められた同法施行令5条には,公衆衛生に与える影響が著しい営業につき具体的に規定しているところ,その中には,飲料につき,清涼飲料水製造業(15号)のほかに,製造業種として乳処理業(5号),特別牛乳さく取処理業(6号),集乳業(8号),乳酸菌飲料製造業(16号),氷雪製造業(17号),酒類製造業(24号)等が挙げられている。また,食品等の表示基準に関する同法11条の委任を受けた同法施行規則5条は,販売の用に供する食品等の表示の基準を定め,その基準が適用される食品等の範囲を別表第3に定めているところ,そこでは酒精飲料とは別に清涼飲料水が挙げられている。さらに,同条1項1号ヲは「ミネラルウォーター類(水のみを原料とする清涼飲料水をいう。)」と規定し,「清涼飲料水」には,水のみを原料とするものも含まれることが明示され,同号ワでは「冷凍果実飲料」が掲げられ,同条12項の別表第5の3からも,原料用果汁や原料用濃縮コーヒーを原料とする清涼飲料水の製造が明記されていることにより,清涼飲料水には果汁飲料,コーヒー飲料が含まれることが明らかにされている。そして,食品衛生法7条1項及び10条の規定に基づき定められた「食品,添加物等の規格基準」には,清涼飲料水の製造基準として,ミネラルウォーター類,冷凍果実飲料及び原料用果汁を除く清涼飲料水についての製造基準が定められているほか,ミネラルウォーター類など右に除外された清涼飲料水についてはそれぞれ別途に製造基準が定められていることから,ミネラルウォーター類,冷凍果実飲料や原料用果汁が清涼飲料水に含まれることが明らかにされている。また,右規格基準の「器具又は容器包装の用途別規格」の項では,炭酸を含有する清涼飲料水,炭酸を含有しない清涼飲料水の区別がされている。以上のほか,右の規格基準に規定された清涼飲料水の成分規格や製造基準の内容,食品衛生法の立法趣旨等の点に照らせば,「清涼飲料水製造業」にいう「清涼飲料水」とは,特別な規制を必要とする飲料(前記の酒類,乳類関係,氷雪等)を除いた飲料水で,容器に入れるなどして保存することが予定され,殺菌のための加熱処理等を施すことなく,そのままの状態で直接飲用に供することが予定されている類型のものをいい,その中には,炭酸飲料に限らず,果汁飲料,コーヒー飲料,紅茶,緑茶などの茶系飲料,アイソトニック飲料,ミネラルウォーター類などの飲料水が広く含まれるのであって,これらのものについては,腐敗や変質を防止し,有害な物質や細菌が含有されないようにすることなどの観点からの規制を必要とすることから,清涼飲料水製造業につき業種として規制を加えていることが明らかである。このことは,通常の判断能力を有する一般人において関係の法条自体から十分読み取ることができるものであり,飲料水を製造販売しようとする者が,関係法令等を調査すれば,食品衛生法施行令5条15号の「清涼飲料水製造業」にいう「清涼飲料水」が前記のような内容のものであることを容易に理解できるというべきである。のみならず,前記食品衛生法及びその関係法令が制定されてから既に40年以上が経過しており,その間,前記のような種々の飲料水が広く清涼飲料水として製造され流通していて,これらが清涼飲料水として規制の対象とされてきている事実が認められ,前記のような認識,解釈は一般人,とりわけこれらの製造,販売等の営業に従事しあるいは従事しようとする者の間において十分に定着しているものと認められる。

したがって,食品衛生法施行令5条に定める清涼飲料水製造業の概念が処罰規定としてあいまい,不明確なものであり憲法31条に違反し無効であるとする所論は採用できず,限定解釈を必要とするとの所論も前提を欠くものであって,ミネラルウォーター類の製造業がこれに含まれることは文言上も明らかである。食品衛生法施行令5条の「清涼飲料水製造業」の文言があいまい不明確ではないとした原判決の結論は正当である。

3 以上のとおり食品衛生法30条の2第1項,21条,20条の規定は,憲法73条6号ただし書に違反せず,同法施行令5条に定める「清涼飲料水製造業」の文言は罰則規定として憲法31条に違反しないから,被告人の行為にこれらの法条を適用して有罪とした原判決には所論のような法令適用の誤りはなく,論旨は理由がない。

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